第12回広島市立大学芸術学部卒業修了作品展

卒業修了作品展とは

広島市立大学芸術学部では、研究制作の集大成となる卒業修了制作の発表の場を学生に与えるとともに、本学の教育方針を広く市民の皆様に知っていただくことを目的に卒業修了作品展を開催します。広島市現代美術館と大学キャンパスの2会場に分けて、日本画、油絵、彫刻、デザイン工芸など170点あまりの作品を展示いたします。卒業作品展は、平成9年度の芸術学部第1期生の卒業時から開催しており、平成11年度からは、大学院修士課程学生の修了作品展を開催しています。

第12回広島市立大学芸術学部卒業修了作品展 概要

最優秀作品

最優秀作品一覧

美術科

収穫
日本画専攻/水野さやか
自画像
日本画専攻/田村美智子
睡郷
日本画専攻/田村美智子
錯視~cloud~
油絵専攻/片岡希美
三月の地平線
彫刻専攻/山田哲平
繰り返される終わりを待つ
彫刻専攻/山田哲平
ある記号の物語
油絵専攻/下薗博昭
祈り
彫刻専攻/久保寛子

デザイン工芸学科

一朶の雲
漆造形/嶋田美緒
Queen Alice
金属造形/山本桂子
chaplet
金属造形/東祐美
空のとびかた
メディア造形/古山俊輔

美術科 日本画専攻

教員の言葉

デッサンに熱中し、画想に、下図、大下図に、その推敲を重ね、また、ドーサを引き、裏打ち、張込み、と本画の準備をしていよいよ下塗り…4年生にとっては初めての大作である。
昨秋、卒業・修了制作の始まっていた青春の若い力と熱気がみなぎるアトリエで思ったものだ。「順調に進む事もあれば、つまずき悩む事もあるだろう。しっかり悩み、そして、どこまでも食らいつき粘りきって、自らの中に設定したゴールに向かって突き進んで欲しい。」 そして、今、一つの仕事を成し遂げた喜びを味わった。
これが画家の苦しみであり喜びである。卒業・修了作品展、おめでとう。

倉島 重友

作品一覧

美術科 油絵専攻

教員の言葉

感性を磨くことを期待しています。本学のアトリエに通って得たものは、これからのみなさんの指針に大きな糧となっているはずです。いまや社会の情勢は、急速な環境の変化や国際的な力関係の変遷等大きく変わってきています。視野を広くもって価値観を見極め、自らの世界観を鍛え、関わってきた芸術を通して社会に問うことのできる人材になるようにと願っています。
可能性を持って、いま、出発しようとするみなさまへ、こころより祝福いたします。

吉井 章

作品一覧

美術科 彫刻専攻

教員の言葉

卒業、修了生の皆さんへ彫刻専攻の皆さんは自分の心の中の奥深い声を聞き、素材と果てしない対話をし、そして作品として具現化していくという彫刻の基本的姿勢を学び、研究をおこなってきました。そして今日その基礎を修め、集大成となる展覧会の日を立派に迎えることが出来ました。今後はさらに複雑な社会の中で、自分の道を切り開いていかねばなりません。この彫刻専攻で培った基礎、すなわち自らの心の声を聞き、他者との対話を大事にした中での懸命な判断と、強い実行力を持ってすれば、必ずよい次の展開を生んでくれるものと信じています。

作品一覧

デザイン工芸学科 金属造形

教員の言葉

金属と向き合い地道な作業を繰り返すなか、素材を知り技術を身に付け、形にする事は以前に比べて容易くなったと思います。しかし、大切なことを端的に表現する事の難しさは、それぞれが痛感しているに違いありません。これからはその大切なものを社会のなかで表現していく事になります。今の時代に何を生み出し創り出していくのか。自分にできる事、市立大学で培ったものを次のステップで存分に発揮していって欲しいと思います。納得のいく仕事が一つでも多く残せるよう自分の仕事を育て続けて下さい。

作品一覧

デザイン工芸学科 漆造形

教員の言葉

漆は古来より培われた人との関わりにおいて、様々な活用法や造形表現が生まれ、現在も多くの可能性に秘められています。しかしながら漆を扱うための技法や道具、更には漆の樹液そのものが時代とともに衰退しています。この現状を踏まえ、漆工房では創作研究だけではなく、漆の育成や産地の現状調査を行ってきました。今年の卒業生はこれらの様々な活動を積極的に取り組むことで「自然」と「人」の繋がりで生まれるもの作りの本質を感じながら自己の思いを表現しているといえます。この経験を生かし、さらに飛躍してくれることを願います。

作品一覧

デザイン工芸学科 染色造形

教員の言葉

染織造形では技術の習得に長い年月を要する。そのため鑑賞者はその技術のレベルによって作品の善し悪しを判断しがちである。3年や5年程の経験しかない学生の作品では言わずもがなである。しかし、若者が考えること、挑戦しようとすることは伝統ある染織の分野に今までにない衝撃を与える可能性がある。
彼らは今、表現者の一人として真摯に作品制作に取り組んでいる。素材や技法を生かしながら、新しい世界が描けるか楽しみである。

藤本 哲夫

作品一覧

デザイン工芸学科 視覚造形

教員の言葉

私は、機会ある度に「貴方にとってデザインとは何ですか?」という質問をしている。すると、「生活を良くする事、物」、「文化」、「情報」、「愛」、「真」、「コンプレックス」、「普通」、「つなぐ」、と様々な答えが返ってきます。それは近年「デザイン」の定義が大きく変わろうとしているからで、印刷媒体や映像だけでなく、私達が見、聴き、触れるもの、食べる事、思う事、そのすべてにデザインは「在る」のです。
社会、産業、情報、文化、教育、環境、地域、様々な分野との関係の中で、卒業、修了する学生一人一人がその能力を発揮してくれると思います。どうかご来場他、多くの方のご指導ご支援を賜りますよう心からお願い申し上げます。

及川 文男

作品一覧

デザイン工芸学科 立体造形

教員の言葉

「座」デザイン
2008年度卒業生の作品は、3年前期課題の「椅子のデザイン」が印象強い。課題は「座」が本来有する実用性、その造形、ならびに構造を最適なデザインを目的に、木材に限定する材料以外、自由である。デザインは、芸術資料館所蔵の名作椅子を調査し、講義や海外デザイナーの講演ありと奥深い。
制作した椅子は、大学祭にホールの回廊で展示し、ガラス越しの椅子が別の表情をもち存在感を放つ。会期中に見学者が様々に意見と評価を寄せる。うれしい評価や手厳しい評価が返る。なかには重圧に耐えきれない椅子のデザインもある。 卒業後に自らの独自的な世界を歩むことになる諸君は、存在感ある自らの「座」を極めてほしいと願っている。

作品一覧

デザイン工芸学科 メディア造形

教員の言葉

あらゆる情報がデジタル化し、今我々を取り巻く環境はまさに未来的なサイバー世界へと突き進んでいます。放送のデジタル化は整備の完了を迎え、ネットワーク・プロトコルは近い将来次世代へと移行しようとしています。あらゆるメディアで最も重要な、映像コンテンツを制作するメディア造形の卒業・修了生達が、果たしてどんな作品で未来を予感させ、私達に示してくれるのか、期待で胸が一杯です。

作品一覧

デザイン工芸学科 現代表現

教員の言葉

新しい葡萄酒は新しい革袋に
誰も新しい葡萄酒を古い革袋に注いだりしない。そういうことをすれば、新しい 酒が革袋を破り、酒は失われ、革袋も駄目になる。新しい葡萄酒は新しい革袋に。
——『マルコ福音書』2章22節(田川建三訳)

「現代表現」という名称をもつ研究室ができたのは、2006年4月、今から3年ほど前のことである。広島市立大学芸術学部のデザイン工芸学科で大井健次教授と鰕澤達夫助教授(当時)が担当していた専門分野の「空間造形」は、前年に「視覚造形」に着任していた柳幸典助教授(当時)の異動とともに、「現代表現」へと改組したのである。
「現代表現」は、現代美術を中心とした新しい表現を教育・研究するために設置された。「新しい葡萄酒」のたとえ話にあるように、本当に新しい考えを推し進めようとするとき、今までの体制ではうまくいかないことがある。もともと現代美術に重点を移しつつあった「空間造形」が「現代表現」へと改組したことは、名称や体制を変更することによって、その設置の趣旨を明確にすると同時に、本格的に現代美術のフィールドに参入することを意味している。
今年度に卒業する学部4年生と、修了する修士2年生はいずれも、その「新しい革袋」のなかで育った者たちである。デザイン工芸学科では2年生に進級するときに専門分野を選択する。今回の卒業生は、そのときに「現代表現」を選択した最初の学年である。また、今年度の修了生は、「現代表現」ができた翌年に大学院に入学した者たちである。いずれも、「現代表現」という「新しい革袋」のなかで、現代の表現行為について思考を巡らせ、制作に取り組んできたのである。
今回の卒業制作作品と修了制作作品を見て、「現代表現」という「新しい革袋」の効果が出始めたと感じたのは私だけではないだろう。昔のカタログを見る限り、「空間造形」の時代は、デザイン的感性を活かした空間構成に特徴がある作品が多かったように思われるが、「現代表現」になってから、媒体やコンセプトが多様化してきている。今年は、絵画やインスタレーションに加えて、パフォーマンス、映像、写真、サウンドアートへの展開が見られた。媒体が多様化しただけでない。視覚的な洗練さの追求は後退し、社会や記憶、ジェンダーやメタ美術史にいたるまで、コンセプチュアルな深化が全体として見受けられるようになった。「新しい葡萄酒」は「新しい革袋」のなかで確実に熟成しつつあるのである。

加治屋健司

作品一覧